スミマサノリ「月曜日にオジャマシマス」

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行きつけのバーのマスターがカクテルの大会で銅賞を取った。いつもおいしいお酒を出してくれるマスターである。銅賞受賞も当然の結果だろう。いや、むしろ金賞じゃなかった事が不思議なくらいだ。僕の中でマスターのお酒はいつも金賞だ。まあ、ただのお酒好きの酔っぱらいから「金賞!」と言われても有り難くはないと思うが、とにかく、銅賞だって凄い事だ。是非、そのカクテルを飲んでみたい。

マスターにお願いして、銅賞受賞のカクテルを作ってもらった。





【バーの名前はテルスです】

カクテルの大会で銅賞を取ったマスターの名前は杉山裕二さん。麻布十番で「テルス」というバーを経営している。洋酒を中心に約530種類ものお酒が用意されている本格的なお店だ。洋酒だけでなく日本のお酒も沢山あって、この前は沖縄泡盛の「どなん」を飲ませてくれた。アルコール度60度の強烈なお酒だ。ちなみにアルコール度96度の「スピリタス」も置いてある。ちょっと舐めただけで舌が痺れる世界最強のお酒である。

こうやって書くと、テルスは強いお酒ばかりを飲ませるお店のようになってしまうが、全くそんな事はない。新鮮なフルーツを使って作るカクテルがおいしいのだ。僕はいつもフルーツのカクテルを飲んでいる。


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バー・テルス

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マスターの杉山さん


この杉山さんが、カクテルで日本3位になったのだ。
一体、どんな大会だったのか?

杉山さん「ズブロッカを使ったカクテル、というお題で競いました」

「ズブロッカ」の輸入総販売元であるリードオフジャパンという会社が主催した「全国ケータイカクテルコンペティション」という大会だったらしい。タイトルに「ケータイ」とついている所からも分かるように、作品のエントリーは写メで受け付けるというユニークな大会である。応募期間は昨年の7月17日から9月30日、参加資格はバーテンに限られる。つまり、プロしか応募出来ないのだ。そんな中での3位だから、やっぱり凄い。


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3位の賞状

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実際に応募した時のメール





【どんなカクテルを作ったのか?】

で、杉山さんはどんなカクテルを作って3位入賞を果たしたのか。そのレシピを再現してもらう事にした。もちろん、出来上がったら飲ませていただくつもりだ。

オリジナルカクテルの名前は「アップルパイ」。材料は以下である。

 ・ズブロッカ 45cc
 ・フレッシュりんご 1/2個
 ・レモン 1/8カット
 ・シナモンパウダー 少量

大会のルールとして、「ズブロッカ以外で使える材料は6種類まで」、「ホットドリンクでもオッケー」、「グラスはカクテルグラス、ロンググラス、ロックグラスで」、などがあり、杉山さんのカクテルはもちろんその辺りをクリアしている。

そして、材料を見ても分かるように、「アップルパイ」は杉山さんお得意のフルーツカクテルのようである。りんごとズブロッカ、素人の僕にはその味が全く想像出来ない。

フルーツの魔術師、杉山さんはどんな味を作り出すのか? 早速作ってもらおう。

まずはガーニッシュと呼ばれる飾り部分だ。
りんごを丸くくり抜いて串にさす。


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ガーニッシュを作って

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グラスに添える

グラスの縁に小さなりんごを添えることで、このカクテルがりんごのカクテルである事をそっと主張する。まさにフルーツの魔術師ならではの演出である。

(ここから「大改造!!劇的ビフォーアフター」を意識した文体にします)

ガーニッシュを作り終えた杉山は(劇的ビフォーアフター風なので呼び捨てです)、おもむろに果物ナイフを手に取りました。今回の主役、フレッシュりんごを切るためです。レシピによると使うリンゴは1/2個。これを杉山はざっくりと切り落とします。


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りんごを半分に切って

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ざっくりとカット

ざっくりとカットしたりんごをグラスに入れた杉山。これをどうするつもりなのでしょう?

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棒でつぶす

なんという事でしょう。
杉山は棒状のものでグラスの中のりんごを潰し始めました。力強くリズミカルに、りんごをザクザク潰していきます。その動作に一寸の無駄もありません。フルーツの匠が今、りんごを自分の世界に引き込んでいきます。

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形がなくなるまで潰す

りんごの形が完全になくなった時、匠はカットレモンを手にしました。すり潰したりんごにレモンを搾ります。そうする事でりんごの茶褐色化を防ぐのです。カクテルはまず目で楽しむもの。そんな匠ならではの気遣いが感じられます。

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レモンを絞る

ここで、本日のもう一つの主役、ズブロッカの登場です。ポーランド産のウォッカでアルコール度は40度。

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ズブロッカ

すり潰したりんごにズブロッカ。この2つの材料を匠はどう料理するのか?
次の瞬間、匠は誰もが予想しない行動をとるのです。

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ボストンシェーカーに入れる

なんという事でしょう。
すり潰したりんごとズブロッカをボストンシェーカーの中に入れてしまいました。氷も入れています。まさかこれをシェイクするつもりでしょうか?

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シェイクする

匠は無言でボストンシェイカーを振り始めました。カシャカシャという音が店内に鳴り響きます。シェイカーを振るスピードが速過ぎて、写真に写す事が困難なほどです。これが日本3位のシェイキングなのでしょう。速過ぎて、逆にゆっくり見えてしまいます。

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シェイク後

シェイクした液体を、匠はすかさずストレイナーというこし器にかけます。余分なものは一切排除する。匠のこだわりがこんな所にも見え隠れします。

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ストレイナーにかけてグラスに注ぐ

グラスに注ぎ終わっても、このカクテルはまだ完成ではありません。そう、最後の仕上げにシナモンパウダーをかけるのです。りんご、レモン、ズブロッカ、そしてシナモンパウダー。フルーツの魔術師が仕掛ける味の四重奏です。

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こちらでございます

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杉山裕二作、アップルパイ

ついに日本3位のカクテル、「アップルパイ」の全貌が明らかになりました。新鮮なフルーツを贅沢に使ったズブロッカのカクテルです。

一体どんな味がするのでしょう?

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ちょっと失敬して

一口飲むと、口の中に春がやって来ました。ほどよい酸味がズブロッカの味を引き立てます。

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なんという事でしょう。
あまりにもおいしいので一気に飲んでしまいました。ズブロッカは40度。大丈夫でしょうか?





という訳で、杉山さんから日本3位のカクテルをご馳走になった。日本3位は伊達じゃなく、本当においしかったです。麻布十番にお越しの際は是非、「バー・テルス」にお立ち寄りください。


【取材協力】
 バー・テルス
 住所:東京都港区麻布十番2-2-8 E高林ビル地下1階
 電話:03-3454-0555

※バーテンダー見習い募集中!


(2008/4/14 住正徳)

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